引き継いだ家庭教師先で出会った美しい母親[第4話(終)]
〔体験談投稿者:Small Stone River 様〕
大学の先輩から引き継いだ家庭教師のアルバイトを続けながら、俺は俺で自分の進路、将来の職種・職業を考え始めた。
他人とつるむのがあまり得意じゃない、というかはっきり言って避けたい俺としては、就職に有利だと言われるような人気の高いゼミにもあまり興味はなかった。
特に遊ぶでもなく、暇だから授業にも出る。
勉学にいそしむ、というほど好きでもない。
俺の成績は良かった。
だが別に俺が偉いわけでもスゴイわけでもない。
サボらず講義に出てノートをとり、試験前には見返すのだからそんなに大層なことはしていない。
他にやることもないからだ。
その程度の勉強ならいくらでもかわせる。
時間も余る。
ふと思いついて、とある資格の試験を受けることにした。
「先生、最近は予定のメモを見返したり、少し忙しそうだね。前はそんなことなかったよ」
「少し時間を案配しないとならないときがあって」
「なに、先生、好きな女の子ができて、忙しい?」
母親はニヤニヤしている。
むろん、本心で言ってはいない。
「資格の試験を受けようと思っていて、最近、学校の授業以外の勉強もしてるんです」
大雑把に説明した。
「えっ!それ、難しい試験なんじゃないの?そんな、早く言ってよ。マリコの授業なんて、どうでもいいよ」
「ダメです。どうでもよくありません。ちゃんと時間に余裕をもってやってます。試験は来年の夏ですから」
「ふうん・・・先生がいいなら、いいけど・・・」
「でもママ、もし先生がさ、『もう、マリコさんの高校受験は大丈夫です。今まで色々ありがとうございました』って、どこか行っちゃっていいの?」
娘が平然と言う。
「ダメ!絶対ダメ!そんなの認めない!あたしそんなの許さないよ!」
「ほらね、先生がいなきゃダメなのはママだよ。あたしより」
その週の、授業のある曜日は娘の誕生日と重なった。
俺はプレゼントを買うため、街に出かけた。
職場の午後休を取った母親と勤め先の大学の近所で待ち合わせた。
母親は俺を見つけるなり駆け寄り、ガッチリ腕を組んだ。
「昨日から、何着て行くか迷って寝不足だよ」と笑った。
プレゼントは実用品がいいと俺は考え、服を買うことにした。
おそらく合格して娘が通うことになる進学校は、女子は制服を着用していれば冬場のコートや防寒着は自由とされている。
通学にも使えばいいだろう、と踏んだのだ。
俺はあたりをつけておいた店に行き、ウールでベージュのヘリンボーン、木のトグルで留める、少しクラシカルなダッフルコートを買って包んでもらった。
母親は機嫌が悪い(笑)
「ふうーん。マリコ、いいな、いいな。ねえ先生、あたしには?」
「ナイショです」
「なんで?今はナイショ?あとでわかるの?」
「そうです。あとで」
「いつ頃のあと?」
「それも、ナイショです」
「ふうーん」
時間に余裕をもって出かけたので、娘が帰ってくるまでに2時間ほどあった。
玄関で母親がうしろから抱きついてくる。
「あたしはなんにも要らないよ。ギュッてして、キスしてくれたら幸せ」
抱き合って何度もキスをくり返す。
「でもさ、マリコったら、いいな。幸せ者。ねえもっと、いっぱいキスして。大好きって言って」
「大好きです」
「本当ね」
「本当です」
「なに先生、何か、考えごとあるでしょ。解るよ」
こういう点では、まったく隠しごとができない。
時おり不便な気もするものだ。
「ちょっと、お願いがあるんですけど」
「なあに?いいよ。何でも。あたしができることならなんでもいい。あたし先生のためならこの命、いつだって投げ出すよ」
「あんまり大袈裟じゃなくていいんですけど」
「いいの、なんでも言って。お金が要るならマリコを女郎屋に叩き売って五十両・・・」
「“文七元結”じゃないです」
すぐ落語の筋にするのはいつものことで、俺もすっかりなじんだ。
俺も同じようなセリフが出てしまうときがある。
習慣とはコワイものだ。
「お願いって何?」
「来年受ける試験のために、お守りが欲しいんです。・・・学業成就かな」
「うんうん、いいよ。買いに行こう。この近所で学業の神様は母偉荷地天神だね。ついでにマリコのも買ってこよう」
「・・・お金を払えば誰でも同じものが買えるお守りじゃなくて、世界にひとつしかないのが欲しいんです」
「売ってないお守り?」
「そうです。他の誰も持ってないのです」
「どこにも売ってない・・・誰も持ってない・・・って、どうすれば手に入るの?どんなお守り?」
「ヒサコさんの、オマンコの毛をお守りに持っていたいんです」
5秒ほど沈黙があった。
この沈黙が怖い。
「・・・。ダメ!絶対ダメ!なに言い出すかと思ったら、先生バカ!ダメに決まってんでしょ!男ってみんな、もう、バカなの?」
「そんな、さっき命だって投げ出すって・・・」
「それとこれとは話が違う!」
鼓膜から脳天に振動が伝わるような声で、母親が怒鳴った。
母親は俺の正面に向き直り、両掌を俺の両肩にかけた。
母親の頭のてっぺんのラインは俺の鼻の頭あたりだ。
同世代の女性の中では上背があるほうだろう。
服を買いに行った店でも、「お母さん、スタイルがよくて羨ましいですね」と店員にオベッカを使われていた。
やはり見た目は、親子連れ、母親と息子と映るのだろう。
「ねえ先生・・・いつも優しくて、マジメでさ、マリコやあたしのワガママだって聞いてくれて、マリコなんか『先生は父ちゃんの生まれ変わりじゃないかな?計算合わないけど』って言うんだよ。マリコが3年生とちょっとで死んじゃったからね。そんな先生なのに・・・」
ここで一旦、母親は言葉を切って、俺を睨んだ。
でも顔は笑っている。
「ひとたびエッチなこととなると、どうしてこう底抜けっていうか、底なしなの。いくらなんでも、その・・・あそこの毛なんて、そんなの絶対ヤだ。あたしだって知ってるよ。それ、戦争に行く男の人の無事を祈って、恋人や許嫁の女の人が持たせたっていうんでしょ。それがなんで試験のお守りなの。効き目あるの?」
「あります」
俺は力強くそう言い、遠くの方を見る目つきでバルコニーの外を眺め、両手を腰に当てて立ち尽くした。
「アッハッハッハ、アッハッハ、なんで笑わすの。アッハッハ・・・もう、ダメだったらダメだよ。どうしてそんなもの欲しいの?」
「お金では絶対買えない、愛してる女性の、他の誰も持ってないものが欲しいから・・・」
俺はそう言った。
母親は笑うのを止めて少しマジメな表情になり、視線を下に落とした。
「じゃあ、もう一回言ってよ」
小さな、か細い声だった。
“もう一回”の部分がどこかは解る。
「愛してる人の・・・」
「・・・愛してる、って言ってくれたの・・・あたしのこと愛してるって・・・」
母親が大きくゆっくり、鼻で呼吸している。
今までの付き合いでなんとなく次はわかる。
案の定、母親は大声で泣き出した。
こういった喜怒哀楽がわかりやすい人は俺の人生、まったく身近にいなかった。
(ふうん、こんな感じなんだ)と俺はいつも興味津々である。
「うえーん、バカ。うえーん。どうしてまた泣かすの。あたしいつも泣かされてばっかりだ。もう一回言って!愛してるって言って!」
「愛してる」
「・・・言って欲しかったよ。ずっと・・・あたし言いたかった・・・言いたかったけど、先生も愛してるって言ってくれなかったら寂しい・・・って思うと・・・あたしすぐ弱気になるからさ・・・あー、もうオマンコの毛なんて、いくらでもあげる。先生も知ってるでしょ。あたしは余るほど、売るほどあるから。好きなだけ持ってって」
ほんのつい数分前と、結論がこうまで変わるのだろうか。
「ところで、どうやってあげたらいいの?今あたしがパンツに手、入れて、2、3本抜いて『ハイこれ』って渡したら、なんかありがたい感じが無いんじゃない?」
「・・・なんか俺、悲しくなってきました」
「そうでしょ、あたしも覚悟を決めたからさ、ちゃんとやろう」
何が“ちゃんと”なのか、さっぱりわからない。
母親とリビングの続きの居間に行き、母と娘が「玉座」と呼んでいる、オットマン付の座椅子に母親が座った。
これはテレビを観る特等席でよく取り合いになるらしく、母親は昼寝の時にも使っているらしい。
買い物から帰ったままの服、母親はアーリーアメリカンのデニム地、Aラインのシャツワンピースだ。
前合わせが上から下までボタン留めで、要するにボタンを全部外すと浴衣のように脱ぎ着できるのだ。
母親は前ボタンを裾の方から外して、ウエストくらいまでのボタンを全部外した。
スカートで言うなら巻きスカートをほどいて、“布”にしてしまった状態に近い。
膝を立ててすぼめ、可愛いレースの縁取りがある水色のパンツを脱いで足首から抜いた。
大きく脚を開いてM字になったまま足裏を浮かせる。
毛量が多く面積の広い、母親のオマンコの毛が目の前にある。
「ほら先生、要るだけ、欲しいだけ持っていっていいよ。あたし若い頃から『こんなに無くてもいいのに』ってよく思ったし、減ったら減ったで、その・・・楽かもしれないから、いいよ」
「要るだけ持ってって、ってどうすれば・・・抜いたら痛いですか?」
「いくらなんでも、痛くて死んじゃうよ。洗面所のさ、赤いコップの後ろにある、小さい引き出しのまん中にあるハサミ、持ってきて」
俺は指示通り、おそらく眉毛やら何やらを整えるときに使うであろう、小さいハサミを持ってきた。
母親は両膝をそれぞれ左右の手で支えて、脚を開いたままの姿勢が楽なようにしている。
面積も毛量も多いオマンコの毛の下に大陰唇が薄っすら見えている。
脚を開いているから膣口から尿道口までの位置も、少しわかる。
俺は椅子の座面に肘をついて、開いた母親の脚の間に頭を潜り込ませた。
「ちょっと先生、よそ見しないで、ちゃんと初志貫徹しなさいよ。せっかく」
「もうちょっと、オマンコ、見てていいですか」
「仕方ないね・・・いいよ。よく見て・・・あたし自分がエッチなの、最近、意外と好きなの。『あたしこんなんじゃなかったのに』って戸惑ってた時もあるけど・・・今は自分がエッチなのも好き。だってさ、先生がすごくエッチになる気持ち、あたしだけに向いてるんだなって思うから、先生はあたしだけのもの・・・ドキドキする・・・よく見てね・・・あたしのオマンコ・・・さっき抱き合ってたときから濡れてるよ、たくさん・・・」
「舐めていい?」
「えっ・・・だって・・・シャワーしてない・・・さっきあたしオシッコもしたよ・・・」
「オシッコならさっき俺もしましたけど」
「ああそう、ん?あれ・・・?そういうことじゃなく・・・あっ・・・ダメって言っても舐めてるじゃない、もう・・・いいよ・・・オマンコたくさん舐めて。うんとエッチにして・・・」
俺はゆっくり、クリトリスの周囲を舌で舐めながら左手の親指と人差し指で大陰唇を拡げた。
そのまま押さえると小陰唇がめくれてピンク色の膣口と尿道口が見える。
右掌を上に向けて中指の腹で会陰から上になぞる。
溢れた体液で中指全体を滑らかにして、膣に指を入れる。
「エッチなヒサコさん、エッチなヒサコさんのオマンコ、大好き」
「うん・・・先生にあたし、うんとエッチにされちゃったの・・・いつも欲しい。思い出すだけで濡れてくる」
「どんなとき、思い出すの?」
「仕事の時も・・・昨日も・・・返却の本を書架に戻すのに台車押してたら・・・急に思い出して濡れて・・・欲しくなったから誰も見てない隅で・・・書架の柱の角のところでオナニーしたの・・・1回イッちゃった後でまたトイレで・・・指も入れてオナニーしたの。すごく淫乱になっちゃったんだな・・・先生のせいで・・・」
膣に入れた中指の腹を上に向けて、ゆっくりGスポットの場所を探りあてる。
「ああ・・・先生、そこ、上のほう、そこ、とってもいい・・・触って・・・触って・・・クリトリスももっと舐めて・・・」
「エッチなヒサコ、もうイキそう?」
「うん・・・あー、イク・・・イクよ・・・出ちゃうかも・・・潮・・・エッチな潮、先生の顔にかけちゃうよ・・・あ・・・イク・・・イク・・・」
母親は膝を抑えていた両掌で俺の頭を自分の腰に抱きかかえるようにして、脚裏を椅子に下ろし背中で突っ張り、腰を浮かせた。
跳ねるように腰を2回、痙攣させ俺の髪をくしゃくしゃに揉んだ。
熱い潮が途切れ途切れに吹き出して、クリトリスを舐めていた俺の舌の裏側から口の中に勢いよく注いだ。
涙の味を濃くしたような体液を俺はそのまま口を開けて受けた。
今度は俺が口を細めて膣口に当て、息を吸う要領で負圧をかけて啜った。
ゴクリ、ゴクリと飲み干すと母親と目が合った。
「エッチなあたしのオマンコ汁、先生飲んでくれたの。あたしにはオチンチンちょうだい。今度はあたしがオマンコで先生の精子、飲むの。たくさん射精して・・・」
俺は下半身を脱ぎ、座椅子に座った母親の脚首を持って上に曲げた。
脚がVの字に開く。
足の甲が耳に当たるくらいに曲げてもまだ撓るほど柔らかい母親の身体に覆いかぶさるように、挿入して動きを速くする。
「エッチなオマンコに精子ちょうだい、早く・・・もうイキそう・・・早くちょうだい、あ・・・イク・・・」
膣の内側が2回、3回と体の奥側に引っ張られるような動きをして、膣から空気が漏れる音が断続して出る。
思い切りそのまま膣内射精する。
「ピクピクしてる・・・子宮が動くの・・・あたしのオマンコ、いつもエッチになっちゃった・・・キスして・・・」
挿入したままでキスをくり返す。
「なんか、しょっぱくて酸っぱいね。あたしのエッチな味・・・」
それも物ともせず、母親は俺の頭全体を抱き締めるようにキスした。
一度母親から離れ、また椅子の座面に肘をつけてゆっくり眺める。
たった今射精した精液が、母親の透明な体液と混ざって膣口からゆっくり流れ、垂れて椅子に落ちる。
「もう・・・先生早く・・・マリコが帰ってきたときにこんな格好したままだったら大変だよ・・・早く、ハサミで切っていいよ、たくさん切っちゃっていいから」
「切って・・・とりあえずどこに置いておけばいいか・・・」
「わかったよ、待ってて」
母親は立ち上がって台所に行った。
椅子が空いたので俺は椅子の合皮の座面に垂れた母親の潮と体液をティッシュで丁寧に拭いた。
「えーと、7号かな。7号買っておいたはず・・・」
(何だろう?)
「あった、あった」
母親が持ってきた物は、よくお弁当でオカズの味が他に移ったりしないように、中に敷く円形に蛇腹の折り目がある、アルミのアレである。
6号だ7号だというのはサイズの区分らしい。
「切ったらこれに置いて。その後であたしが縫い物して、お守りっぽくしてあげるからね」
(ついさっきまで鬼の形相で怒っていたのが信じられない)
俺はそう思ったが黙っていた。
「ホラ、早く。あれ?あたし立ってたほうが、切りやすいね」
言われてみれば確かにそうだ。
そのうえ、母親のオマンコの周囲がまだ濡れているので切っても散らばらない。
俺はゆっくり、摘んで少し引っ張って根元をハサミで切る、という作業を繰り返した。
俺が頼みこんでそうさせてもらっているのだから何か言う筋合いではないが、しゃがみ込んで女性の陰毛をチョキチョキ切っている息子の姿を俺の親が見たら泣くだろう、と一瞬思う。
アルミカップの底面が埋まり、皿の4分の3ほど毛が溜まった。
オマンコに目をやると、まだほとんど減っているように見えない。
「ねえ、一回だけ訊いていい?」
「なんですか・・・」
「ほかの・・・ほかの人は、どんなだった?」
「忘れました」
「そう言うと思ったよ。言わなくていいけど・・・あたしさ、やっぱり多いよ・・・濃いよね・・・?」
「わかりません」
「お年頃の頃はイヤだった時もあったんだけど・・・こんな風に役に立つ日が来るなら、それも良かったな」
「俺も、幸せな気持ちです」
「あっはっはっは、あっはっはっは、もう先生・・・こんなんで幸せなんて簡単すぎない?」
「俺がそう思ったら、それが一番幸せです」
「・・・また、父ちゃんと同じこと言う・・・やっぱり、生まれ変わりかなあ。マリコにもそう言っとこ。ねえ、それぐらいあればいいんじゃない?足りなかったらまた切れば?」
母親はそう言ってアルミの皿を持って、母娘の寝室に持っていった。
お弁当でよく見るアレの中身がオマンコの毛、というのを見た人間は世界でも片手の指で足りるかもしれない。
「可愛い布で、先生だけの世界にひとつのお守り、作ってあげるからね。楽しみにしててね。さあ、マリコそろそろ帰ってくる時間だ。あっ、パンツ穿かなきゃ」
この少し後になるけど、目の細かいキルティングのように格子目に縫った厚めの布で作ったお守りが出来上がった。
娘は「ママ、なに作ってるの?針山?」と訊いたそうだ。
亡くなった娘の父、母親の配偶者だった人がずっと持っていた古い根付(明治・江戸時代の象牙で彫った小さい彫刻)を紐に通して付けてくれた。
ご利益は抜群で、無事に俺の試験は合格でき、今も大切に持っている。
オマンコの力はやっぱりすごい。
娘が帰宅した。
娘は「ママ、頭の上にピンク色の雲がかかってるよ。もう、仲良しだね!」と言って笑うが平然としている。
俺の頭の上には何色の雲か何かが出ているのだろうか。
訊きたかったがヤブヘビだったら嫌なので、我慢した。
商店街の花屋に頼んでおいた花束とダッフルコート、『15歳おめでとう。昔は15歳で「元服」だから立派な大人です』と書いたカードと一緒に渡した。
娘はしばらく無言だった。
絞った雑巾のように体をくねらせて、ニヤニヤ笑っていたかと思うと泣き出し、母親の肩に寄りかかって泣いた。
「せんせい・・・ありがと。すごく嬉しい。ありがと・・・」
母親は娘の髪を撫でながら・・・。
「よかったね。先生がいて、よかったね。あたしも嬉しい、自分のことみたいに。でも今すごいヤキモチ妬いてんだけど!」
そう言って、俺を見て笑った。
「ねえ先生、今日、勉強の予定があったら悪いんだけど、今日は勉強なしじゃだめ?」
母親が言った。
「はい・・・大丈夫ですよ・・・もう3年の単元は終わって、あとは復習が主だし・・・」
「じゃあ、このままごはん、お誕生会にしよう」
母親が作ったミートローフとハッシュドビーフ、俺の好きなホワイトクリームのスパゲティ、手作りのホールケーキでいかにも誕生日らしく、やはり母親が娘と一緒に作った雁月を食べながらお茶を飲んだ。
娘の天敵だった音楽の女性教師と最近はそれほど険悪ではなく、特に市の合唱コンクールで娘がクラスで選抜されたメンバーを率先して練習に打ち込み優勝した後からはすっかり打ち解けたようで、娘も「S先生をあだ名の“ミクラス”(さすがの俺もヒドイと思った)って呼ぶのはやめた」などと話していた。
「ねえ先生、ちょっと話、あるんだけど」
娘は、『今日、言うの?ママ』と言いたげな表情だ。
特に意外なことでもないらしい。
「先生、まどろっこしい言い方、あたしできないから、お願いがあるの。さっさと言ってもいい?」
「お母さんから・・・お願いですか?」
「お母さんって呼ぶのやめて」
「ヒサコさんから、お願いですか?」
「そう。先生、このウチでいっしょに住もう。いっしょに暮らして欲しいの。マリコとも1分半くらい、話して決めたの。決めた、っていうのは『先生にそう頼んでみよう』って二人で思った、って意味だからね。あとは先生が、考えて決めてくれたらいいの。あたしとマリコがそうして欲しい、っていうより先生がどう思うか、で・・・」
母親は一気にここまで喋った。
途中から顔が紅潮してきた。
区切りのところまで言い終わると、俺が予想した通りやっぱり目に涙を浮かべている。
「あたしもマリコも、先生とずっといっしょにいたい。でもさ、いつでも先生は先生の好きなように、生きていって欲しい。好きな女の人ができても、結婚してもいいの。先生が幸せな人生送ってくれたら一番いい。でも、どれだけ短い時間でもいいから、朝起きて先生いる、夜寝る時も先生いる、いっしょにごはんを食べて、みんなで出かけて、そういう日が少しでもあったら、それでいいの」
娘も泣いている。
言葉は発さないが、『あたしもそうして欲しい、先生、お願い』と顔に描いてある。
「そうですか、じゃあ、俺も大事な話があります」
母と娘は『えっ・・・』という表情に同時になった。
(まさか、「今日でお別れです」って、もしかして言うんじゃ・・・)
俺も影響されたのか、二人がそう思っているのがわかる気がした。
「俺は大学生で、20歳もとっくに過ぎた大人です。来年度には卒業して、それからはたぶん、社会人です。でも『学生』とか『大人』とか『社会人』とか、そういうのは『役割』みたいなもので、それを取ったら俺という人間がいるだけです。『親子』とか『兄弟姉妹』とか『夫婦』とか、それも世の中で生きていく上で便利でわかりやすいから、そう決めただけです。誰でもどこかの両親との間に生まれた人っていうだけで、大学生とか中学生とか大人とか、そういう見分け方と役目みたいな物を目印に生きているだけで。本当の親と子でも、憎しみあうこともあるでしょ。兄弟でも、夫婦でも。他人でも、愛し合って夫婦になって、死ぬまで愛し合う夫婦もいるし、愛し合って夫婦になっても憎しみあう人たちもいるでしょ。俺がこの家に来ることになったのはたまたま、偶然みたいなことです。でも、すぐマリコさんもヒサコさんも大好きになったし、そばにいたいと思うようになった。もともと別の人間で別の人生です。出会うこともお別れすることもある。でも、今どうしているかな、どこかで元気でいるといいな、という別の人生じゃない人生はあるかどうか、そう思って考えていました」
母と娘は泣き止んで、俺のことを見つめている。
娘は右手で母親の右手を握り、左手を母の肘に添えている。
その手に意識しなくても力が入っているのがわかる。
「お母さんと呼ぶとイヤがるけど、お母さんが、つまりヒサコさんが、『あたし先生大好きだけど、あたしがワガママ言って先生の人生ジャマして、先生があたしのこと疎ましくなったら、あたしもう生きててもしょうがない。でも離れたくない。どうしたらいいのかわからない』って言って、何度も俺の前で泣きました。きっと俺がいない時にもそう思って泣いてたんだと思います。そんな風にヒサコさんが悲しい気持ちになるのは俺もすごく悲しい」
俺は一旦、言葉を切った。
母と娘は黙っている。
何も言おうとしない。
「色々考えました。考えて結論を出しました。でもこれは俺が頭の中だけで考えたことだから、今はまだ聞いていてください」
母親は静かに、頷いた。
娘は小さい小さい声で、「うん」と言った。
「プレゼントの服を買いに行ったお店でも、『お母さん、美人さんですね、スタイルもよくて素敵ですね』って言われたし、世の中は勝手に“親子”って思って見るでしょ。なんの疑問もなく。俺も“ああ、そう見えるんだな”って思うだけで、なんとも思わない。ヒサコさんも面白がって『息子!荷物持って!』って言っても、なんにも、不自然じゃない。家族のように見えたら、世の中は家族として何の疑問もなく家族と思って、親子連れ、家族連れとして接するんだなと改めて思いました。俺はヒサコさんとマリコさんの家族になりたい。そう思いました」
母親が口を開いた。
「家族・・・あたしと、マリコと、家族になるの・・・先生が?」
「そうです。説明が要るときはまた説明しますけど、俺はもう成人なので自分の意志で『普通養子縁組』という仕組みを申請することができます。ヒサコさんが“養親”という親、俺は養子という“子”になります。法律の上では俺がヒサコさんの子、息子です。マリコさんとは血の繋がりのない兄妹になります」
「あたしの・・・息子・・・先生が・・・」
「あたしの・・・お兄ちゃん・・・先生が・・・」
母と娘で、ほぼ声が揃った。
「付け足しますけど、これは、俺の両親たちは同じように実の親のままです。俺はたまたま両親二人とも生きてるので、俺にとって『親』が3人になることになります」
娘が母親の肩で鼻水を拭いた。
「俺はいま両親と同じ戸籍に入っているのを抜けてヒサコさんとマリコさんと同じ戸籍に入ります。ヒサコさんとマリコさんは何も変化ありません。俺の姓は、ヒサコさんとマリコさんと同じになります」
「でも・・・そんなこと・・・先生が一人で決めて、先生のお父さんやお母さんは・・・それでいいと思うかどうか・・・」
「もう話しました。『そうか、お前の決めたようにするのがいい。人間はそのままだしな』って言ってました。俺はそういう親に育てられたから、こういう考えをする人間なのかもしれませんけど」
母親は俯いているが、その表情は泣いていたさっきまでとは別人のように柔らかく、おだやかに見える。
「ホントに、いいの・・・先生・・・あたし死んじゃっても、大したものも残らないよ・・・」
「あってもなくても、養子縁組が成立したときに、俺は相続の放棄にまつわる手続きをします。何が残っても残らなくても、マリコさんだけに残してください」
「ママ・・・家族だって・・・先生じゃなくて、あたしのお兄ちゃん・・・ママの息子、家族だって、3人の家族・・・」
娘は泣くのを通り越して、母親の腕を握って頭を肩にもたれさせた。
母親の目からもまた、涙がボロボロと落ちた。
「親子という仕組みになってもそれは世の中の約束事、法律とか社会のルールの世界です。俺とヒサコさん、マリコさんと送る人生、どうせ色々なことが起こるでしょうけど、俺はこれが一番いいと思ってます」
「ずっと、親子なの?」
「そうです。生きてる間ずっと、死んでも親は親、子は子です」
「でも・・・でもさ・・・母親になったあたしは・・・先生を男の人として・・・その・・・ダメなんでしょ、親子、じゃ・・・」
「その意味で“ダメ”なのは、法律の上で結婚できない間柄のときです。別に何も変わらなくていいんです。『仕組み』の上では親子でも、俺はある日ふらりとやってきたどこかのアカの他人の男なんですよ。俺はヒサコさんを一人の女性として愛するようになった。『結婚する』ことを選びたいと俺は思ったけど」
母親はハッとした顔で俺を見た。
「ナイショにして悪かったと思いますけど、俺、ヒサコさんの従姉のマユミさんに訊きに行ったんです。ヒサコさんといっしょに生きていくのに、何が一番いいか、俺にはヒサコさんと結婚したい気持ちがあるというのを話して、相談に乗ってもらいました。旦那様にもいっしょに聞いてもらいました。『ヒサコちゃんは絶対、ダメって言うと思う。実はあたしも前に訊かれた。いっしょにいたいけど、どうしたらいいかわからなくて辛い』って」
「・・・だって・・・あたし、先生の人生をこんなにしちゃった、ってずっと後悔して生きるくらいならって・・・」
「それで、親子になってみんなと家族になる、っていうことを考えたんです。でも今話したことは、まだ俺が頭の中で考えただけです。ヒサコさんとマリコさんが、どう思うか、二人で・・・」
「本当に・・・本当にそんな・・・いいの先生?どんな人生だって、選べるのに・・・」
また小さな声で泣いた。
泣き声が鼻声になり、か細くなった。
娘が打って変わって、凛とした声で言った。
「あたし、考える時間なんて要らない。先生、そうしよう。ママ、3人で家族になって、生きていこうよ。ママ、お願い。あたし、そうしたい。そうして欲しい」
「あたし・・・あたしどうしよう、嬉しいけど先生がそんな風に思ってたなんて・・・」
「ママ、父ちゃんの口癖だったんでしょ、『そうしたい方をすぐ選べ』って。父ちゃんがここにいたら絶対、そう言うよ」
「うん・・・うん・・・そうして欲しい・・・先生、あたしとマリコと、家族になって。いっしょに・・・いっしょに生きる・・・」
「はい」
「ママ、よかったね。ママ・・・みんなで、幸せになろう・・・」
「うん、あたしもう、今幸せだ。死んでもいいくらい・・・」
居間のテーブルで、オヤツを食べ、お茶を飲みながら、ずいぶんと壮大な、自分の人生と自分と関わる人たちの人生を左右する話をしてるものだ。
俺は心の中で少しおかしかったが、表情には出さず手を握りあって泣いている母娘を見ている。