幼馴染の同級生の母親と[前編]

Hな体験

〔体験談投稿者:Small Stone River 様〕

俺は大学に入るとき、家から遠い遠い場所にある大学を選んだ。

大した理由はない。
どうせ人生の中のたった4年間、目先が変わって面白い場所がいいと思っただけだ。

進路指導の教師は半ば呆れていたが、「まあ、どんな学校行っても本人次第だからな」と言い、それ以上は干渉しなかった。

俺にある程度は成績の裏付けがあったからだとも思う(笑)

高校を卒業する年度末、今度はまるで示し合わせたかのように俺の父親が転勤になった。
両親と俺は、それこそ日本の端と端と言ってもいいくらいの距離を離れて暮らすことになった。
そして俺たち家族は会社の社宅住まいだったから、俺は学校が長期の休みのとき、帰る場所がなくなってしまった(笑)

まあ、帰る場所がないならずっと大学のある街と下宿にいたらいいのだけど、さすがに飽きる。
そして大した用もないのに想定外に遠く離れてしまった両親の住む、なんの馴染みもない土地にわざわざ行く理由も見当たらない。
俺は少し考え、仲のよかった地元の友達の家を転々とすることを画策した。

1日や2日、いや寝る場所と夜から朝までの半日でいいと頼めば、泊まらせてもくれるだろう。
ダメならダメでそのとき考えればいい。

大学1回生の夏休み、俺は貯金していた金で買った小さいバイクで延々と走り、野宿とバスの待合所と無人駅の駅舎で数回、夜を明かし、地元に帰った。
真夏だし、高速は走れないし、排気ガスと土埃、砂埃で俺は上から下まで真っ黒だった。

まずは一番仲の良かった『K』の家に電話した。
Kは近所に住んでいて、幼小中高といっしょだった。
仲がいいというより、もうあまりに身近すぎて別の家にいる兄弟みたいなものだったろうか。

Kは俺とまったく性質も性格も真逆の、いつも家で本を読んだり電気だの模型だの工作を延々としてるようなタイプだった。
異質すぎて違いすぎて摩擦も起こらない、軋轢もない。
そして頭がよく勉強もできたので国立大学の理工系の学科に進学していた。

自宅から通っているはずだし、週末だから家にいるだろうと踏んだのだ。

電話口にKの母ちゃんが出た。

「あっ、・・・おばちゃん、こんにちは」

「お、その声は、Mちゃんだね。どう元気?高校の卒業式以来だね。夏休みでこっち、帰ってきたの?あんな遠い町の大学行ったから、どうしてるかと思ってたよ」

話が早い。
Kの母ちゃんは快活でキップのいい女性で、俺は子供の頃から好きだった。

「おばちゃん、Kは?もう前期の授業が終わってると思って。居ますか?」

「Kはね、合宿行ってるよ」

そう言って笑った。

(しまった。ゼミ合宿か。Kは成績いいだろうから、きっと先輩に引っ張られて1回生でも有力な研究室に出入りできてるんだろう・・・)

俺は理系じゃないが大学生だから、そのへんの事情はわからなくもない。
そんな想像をした。

「ああ~、ゼミ合宿かあ。もうゼミに出入りしてるんですね。まいったな・・・」

「ゼミ?違うよ、教習所の合宿。クルマの免許だよ。Mちゃんは高校3年の夏休みに学校にナイショで取って、自慢してたじゃん。クルマだよ、クルマ。普通自動車」

「クルマ?!クルマの免許?!Kがクルマの運転?!」

俺は信じられなかった。
Kは3輪車を漕ぐコツさえなかなか要領を得ず、泣いて俺に教わり、自転車の補助輪も同じ学年でいちばん遅くまで取れなかった。
年下の女の子たちですらビュンビュン漕いで走ってゆくのを横目に、俺はKの自転車を後ろから手で押して走って勢いをつけながらバランスをとって漕ぐのを毎日教えたものだった。
やっと補助輪なしで乗れるようになっても、「危ないからダメだ」としつこく教えたのに、カーブで曲がって傾くのを怖がって思い切りブレーキをかけ、後輪から滑って大回転と大転倒をやらかし救急車まで来たあのKが、クルマなんて・・・。

「それがね」

母親はゲラゲラ笑っている。

「工学部で好きになった女の子がいて、その子はお父さんが自動車のレースやる人で、彼女は自動車部員らしいの。自動車部なんて部活があるって、あたし初めて知ったよ。それで何を思ったんだかクルマの免許取りたいって言い出して。父ちゃんも草葉の陰で喜ぶだろうから、教習と合宿の費用は出世払いで出してやったの」

Kのお父さんは長距離トラックの運転手さんだったのだが、事故でKと俺が中学1年の時に亡くなっていたのだ。
気の毒だった。

「ふうん・・・じゃ、当分帰ってこないね。ちゃんと実技できてるのかな・・・」

「さあね。電話もないけど。そのうち『落第してもう帰れない』って言って泣きついてくるかな。そうなったら迎えに行ってやって」

母親は笑った。

「で、Mちゃん、今、コッチに帰ってきてるにしろ、お父さんお母さん転勤でもう社宅にいないんでしょ?今どこ?」

「H市からバイクでずっと走ってきて、今、バイパスの橋渡ったとこです」

携帯もない時代、俺は“市内”扱いになる場所まで来てから公衆電話を探したのだ。

「ははあ、じゃあKをアテにしてたね。残念でした」

「まあいいや、あちこち連絡してみるから・・・」

「Kが居なくても、ウチでいいじゃん。居ないからダメってことないでしょ?」

「いいの?ずっと俺バイクで走ってきて上から下まで真っ黒だけど」

「Kが居ても居なくても真っ黒でしょ。いいから、早く来なさいよ」

細かいことを気にしないKの母ちゃんらしい。
助かった。
俺はそのまま家に向かった。

家には、Kのお父さんが大事に乗っていた古い小さいクルマが、カバーをかけられてそのままあった。
俺はこのクルマを見るたびに寂しくなるので、あまり見ないようにしていたものだ。

カーポートのアコーディオンみたいな扉をガラガラ開けてバイクをしまっていると、Kの母ちゃんがニコニコと出てきた。

「おう、久しぶり。元気そうだね。ホントに真っ黒だ。早くシャワー使いなさい」

誰でも分け隔てなく、いつもこんな感じだった。
俺の母親は言うならKの母ちゃんと正反対で、人づきあいも他人との接触もあまり好まず、家で刺繍や編み物をずっとしているようなタイプだった。
俺が『外の世界、遠い世界』を志向するのはきっとそれらの反動だろう(笑)

俺はKの母ちゃんと3人で商店街の縁日に行ったり、市民プールに行ったりした日を思い出した。
俺がKをそそのかして、危ないから絶対遊ぶな入るなと大人たちに言われていた用水路でテナガエビを釣ったはいいが、二人揃って転んで流され、頭のてっぺんからつま先まで、全身泥まみれで帰ってきた時も母ちゃんは決して怒らず、家の外でそのまま水道のホースでじゃぶじゃぶ水をかけられ洗われた。
母ちゃんはその間ずっとお腹をよじって笑っていた。

(ずいぶん後になって『パルプフィクション』という映画を観たとき、ジョントラボルタとサミュエルジャクソンがそれとそっくり同じ、ホースの水をぶっかけられて洗われるシーンがあり、俺はひとり映画館で爆笑したことがある。他の客は俺が笑う理由もわからず妙だったろう)

それでも「まだドブ臭い!」と母ちゃんは顔をしかめ、そのころまだ町内にあった銭湯に連れて行かれた。
そんな子供の頃に性の意識はゼロだけど、それでもKの母ちゃんは若くてキレイだなと思い、少しドキドキした。

彼女は地域の図書館に勤めていた。
家の中には難しそうな本、外国語の本とかもあって、どうやってトラック野郎の父ちゃんと知り合ったのか、子供の頃は不思議に思ったこともあった。
後から知ったが、二人は大学の同級生で父ちゃんは大学院も出ていたのだ。

Kの母ちゃんは、「昔の大学はね、学生運動とか色々あって」とだけ言ってニヤリと笑い、それ以上のことは話さなかった。

人はぱっと見た印象やイメージではわからないし、他人には想像できない人生もある、と思ったものだ。

シャワーを浴び、どうにか普通に見えるくらいには体の汚れを落とし居間に行くと、Kの母ちゃんは「うわ、顔の色まで違うよ。ウチに着いたときは泥浴びしたイノシシみたいだったよ」と笑った。

「洗濯物、しておくよ。それは脱いでKの着て」

「いや、いいよ、乾けば・・・」

「乾かしてそのままウチの中に砂埃を撒く気?早く着替えなさい!」

一式、服が置いてあった。

着替えて居間にもどり、やっと“椅子のある場所”で座ることができた。
共通で知ってる家の子の消息とか、そんな話をしばらくした。

「コドモなんて、この前産んだと思ったらあっという間に大学生か・・・早いね。来年はハタチで成人でしょ(当時の成人は20歳)教えておくけど、20歳からの10年なんてあっという間だよ。30歳からはもっと早い。一瞬だよ。5年や10年って昨日かおととい程度に思えるからね、あたしくらいになると」

「おばちゃん、今年何歳なの?」

「まったくもう、失礼だね。42だよ42。大学の卒業式のとき、もうお腹にいたKが目立ちはじめて難儀したからね、それからもう19年か」

ふうん。
もし俺があと3年かそこらで人の親になったとしたら、どんな感じだろう。
想像もつかなかった。

「Mちゃんが来るから、シュークリーム買っておいたよ。食べよう」

「シュークリーム?凄く嬉しい。ありがとう」

今と違い、昔はケーキなんてそれこそお客さんが来るとき以外は口に入らなかった。
商店街のケーキ屋だってそれはそれ、贅沢な買い物だったのだ。

俺は嬉しかった。
それと同時にバイクでずっと走り続けてきた疲労と緊張の解けた安堵で、猛烈に眠くなってきた。

「おばちゃん、ちょっとだけ寝てていいかな。メチャクチャ眠くなって・・・」

「いいよ、少し昼寝していたら。あたし勤め先の同僚の家に用事あるから、2時間くらいで帰ってくる」

Kの母ちゃんはそう言って、何やら書類や封筒を持って出かけていった。
きっとまたどこかの、公民館か何かでやる子供向けの催しの準備だろう。
Kの母ちゃんはそういったことを率先してやる人で、俺も高校の頃には何度も手伝いに駆り出された。
急遽、「人が足りない」と言われ、セリフつきで人形劇の操演までやらされたことがある。
そんな経験一度もないのに(笑)

昼寝していいと言われたところで、布団を敷くわけでもない。
俺は居間の絨毯が敷いてあるスペースに野宿用に持ってきていた寝袋をマクラにして寝転がった。
あっという間に眠りにおちた。

玄関の開く気配がして、Kの母ちゃんが帰ってきた。
まだマブタが重い。
できればまだ寝ていたい。

ボンヤリ上半身を起こしかけると・・・。

「いいよいいよ、寝てて。まったくそこにそのまま寝転がってるとは思わなかったよ。向こうのソファ使えばいいのに」

「あー・・・野宿で地面に寝袋で寝たりバスの待合所で寝たりしたから、もう絨毯でも充分・・・」

と呟いたけど、俺はまた寝入ってしまった・・・。

バイクで峠道を走っているとすごいにわか雨が降ってきて、急いでトンネルの中にバイクを停めた。

(ここで雨宿りだ・・・)

そう思っていると次から次へとトンネルの幅左右ギリギリの、超大型トラックが数珠つなぎでやってくる。
まったく切れ目がなくやってきて俺は壁にへばりついたままだ。

(早く隙を見つけて外に・・・)

そう思ってもなぜか腕にオモリが縛りつけられているように動かない・・・。

(どうしようこのままじゃ・・・)

と思っていると目が覚めた。
夢を見ていたのだ。

(でも腕が・・・本当に重い・・・?)

ふと見ると、Kの母ちゃんが俺の横で寝ている。
伸ばした俺の腕に頭が半分乗っていたのだ。
そして俺と母ちゃんは一枚のタオルケットにくるまっていた。

(そうか、エアコンつけたままにしてくれて、おばちゃんも一緒に寝ちゃったのか)

俺はおかしかった。

おばちゃんは昔から、『自分ではそういうつもりがないのに、傍目にはつい面白くなってしまうタイプ』なのだ。
こういう感じは懐かしかった。

でも俺とおばちゃんがタオルケットに一緒という図は、どう考えたらいいのか。
少し気恥ずかしくて、俺は「おばちゃん、ねえ」って小声で呼んだ。

「んー、ああ、起きたの。気持ちよさそうに寝てるからあたしもつられて眠くなったよ。もうちょっと寝かせて。晩ごはんは鈴乃屋に行って、餡かけ焼きそば食べようよ・・・」

餡かけ焼きそばはいいが、薄目を開けたおばちゃんはまた瞼を閉じてしまった。
そして、俺の腕を踏んづけていた(笑)頭をどけると、なぜか俺の胸元に潜りこんでオデコを俺の喉仏の下あたりにくっつけた。
髪からいい香りがした。

「おばちゃん、あの・・・そんなくっついたら暑くない?俺、体は洗ったけど汗臭くないかな?」

目を瞑ったままおばちゃんは、なぜか小さい小さい声で答えた。

「匂い?するよ。臭いとかじゃないよ。男の匂い。大人の」

そう言われて俺は黙っていた。
おばちゃんは右手を俺の首のうしろに回し、左手で俺の頭を少し撫でた。
俺はどうしたらいいのかわからないでいたが、別になんということもなかった。
理由もなくなんだかホッとした。
やっと立って歩くかどうかの頃から俺のことを知っていて、オムツまで替えてもらった人に今更何か恥ずかしいだのみっともないもない。

ただ、(おばちゃんはどうして俺のこんなすぐそばにいるのだろう?)とは、ぼんやり思った。

「おばちゃん、ちょっと、なんか俺、照れるよ」

「なんで・・・なんでよ?」

「こんな・・・近くにくっついたことないしさ、それに・・・」

「それに、何?」

「Kの母ちゃんじゃん、ずっと昔から知ってるKの・・・」

「だと、嫌か?」

おばちゃんはどういうわけだか、時折“オトコ言葉”になる。
長年の付き合いでわかるのだが(笑)、そう言う時のおばちゃんは優しくて、機嫌がいい。

「嫌じゃないよ」

「じゃあ、いいじゃん。こうしても」

俺はおばちゃんとKと俺と、幼稚園帰りにこんな感じで昼寝したのも思い出した。

そうか、頭を撫でられる懐かしい感じはそれだ。
別に今更照れることなどないのだ。

ゆっくりした声で、おばちゃんが言った。

「父ちゃん死んで、Kとふたりで暮らしてたじゃない、そうやって5年経って。息子も普通に大きくなって大学生で、別にどうということもないって思ってたの。合宿行ってくるよ、おう、ちゃんと合格してこいよ、免許とったら父ちゃんのクルマに乗ろう!って送り出して、そしたら、その日からね・・・」

Kの母ちゃんは目を閉じたままだが、眼尻が少しだけ涙で光っている。

「一人でしょ。この家にあたし一人。今までそんなことなかった。そしたら寂しくなってさ。小さいときはいつもボーっとして、幼稚園のお遊戯会で一人呆然と舞台でつっ立ってたあの息子が、好きな女の子ができてクルマに乗りたい、なんて思うようになったんだなって、嬉しかったけど・・・やっぱりダメだな女親は。寂しいんだよ、どこかに行ってしまう息子が・・・」

「ふうん・・・」

俺は自分の身に置き換えた場合、まったく親の反応が違うだろうことを想像して黙っていた。

親子も家族も、その数だけ思いがある。
元気でサバサバして屈託のないKの母ちゃんが、一人で寂しいと言い、離れてゆく息子を思って涙を流すこともある。

そんなおばちゃんの想いが伝わってくると俺もシンミリしてきた。

「MちゃんはKと全然違うタイプなのにいつも遊んでくれて面倒見てくれて、嬉しかったよ。こうやって夏休みも真っ先にウチに来てくれて。K、居ないけど」

おばちゃんはもう泣いてはいなかった。
目を閉じたまま少し笑った。
俺は安心した。

「Mちゃん、足の先どこ?」

おばちゃんが訊いた。

「足?つま先ってこと?ここだけど」

俺は左右のつま先をタオルケットの下の方でプラプラ動かした。

するとおばちゃんは自分のつま先が同じ位置になるように、体全体で下の方に動いた。
俺のクルブシをおばちゃんが右の足の裏と左の足の甲で挟むようにした。
少しくすぐったかった。

地面に立って向き合えばそういう身長の差になるだろう。
俺の顎の下におばちゃんの頭のてっぺんが来る。

「大きくなったなあ。こんなに背が伸びて。どういう生き物だろうね、オトコって」

その位置のまま、おばちゃんは俺の背中に手をかけ、首に手をまわして力をかけて体を俺の正面に寄せた。

「おばちゃん、もう・・・どうしたの?こうしてればいいの?」

「ヤボだねえ、こういうときは黙ってて。おんなじにすればいい」

「同じって・・・?」

「抱き締めて、力入れていいから、うんと」

(そうか、おばちゃんは俺に甘えてるんだな。今は俺が甘えられる方なんだ・・・)と思った。

幼稚園の頃、3人で右と左で手を繋いで町内会の盆踊りに行った時の、Kの母ちゃんの顔は見上げるような上にあった。
俺の頭の先がやっと腰に手が届くかどうか、だったろう。
今、俺を抱き締めているKの母ちゃんは俺よりずっと小さい。
小さくなってしまったんだ。

俺はすごく愛おしい気持ちが湧き上がってきた。
言われたからじゃなく、その気持ちでKの母ちゃんを抱き締めた。

「俺だって、たくさん色んなことしてもらって、すごく嬉しかったよ。今でも思い出すよ。プールに連れて行ってくれたり、デパートの屋上の遊園地とか。楽しかったな」

「プールって、憶えてるMちゃん。あんたあたしのビキニのブラジャーの・・・」

言われなくても憶えている。
その頃、俺は母から『蝶結び』をうるさく教えられ、やっとできるようになったばかりだった。
それで意味もなく得意になり、用もないのに片っ端から紐を探しては結んで蝶結びにしていた。
ふとプールで見ると、Kの母ちゃんの背中に蝶結びがあるではないか。
俺は素直に、(これをほどいて、もう一回結んであげよう!)と思い、なんの疑問も持たずにほどいてしまったのだった。

「いきなり、オッパイ出してさ、別に誰が見ようがいいけどあたし一人でバカみたい。同じ手口、使ってないだろうね?」

「・・・人聞きの悪いこと・・・そんな都合よく引っ張れるブラジャーの紐はそこらに無いよ」

「Mちゃん、彼女はできた?」

「んーんー。(NOの意)」

「じゃ、セックスは?」

「どういう順番で訊くの。そんな、あるわけないでしょ」

「ふーん・・・順番か・・・まあ、そうか、なるほど」

何が「なるほど」なのか、さっぱりわからない。

俺とKが通った高校は校則などユルユルの、制服もないさばけた学校だったから“盛ん”な連中もいるにはいたが、俺は少し違う感覚で見ていた。
まあ、人それぞれだろう。
大学に入れば人間関係はもっと拡散するし、俺は一人で気ままにいる方がよかった。

「お腹、すいたよ。鈴乃屋行こうよ」

俺は言った。
もう外が暗くなってきていた。
部屋も暗いままだから、Kの母ちゃんの鼻筋の通った顔もシルエットになっている。
今もKの母ちゃんはキレイだった。

「・・・」

Kの母ちゃんが突然、俺にキスした。
唇と唇だ。
俺は不意をつかれ、その勢いでクシャミしてしまった。
Kの母ちゃんが爆笑した。

「まったく、ドラマ性ってものがないね。昔からそうだよこの子は・・・アッハッハ」

ドラマ性の有無を言ったのに、またキスしてきた。
でも笑っていない。
俺を抱き締める手の力がさっきよりすごく強い。

どうしたらいいんだろう。
でも・・・俺は・・・俺もこの母ちゃんが昔から大好きだったじゃないか。
なら、それでいいやと思った。

俺もゆっくりKの母ちゃんを抱き締めて、多少ぎこちなくではあったがキスした。
2回、3回。
なんとなく普通の感じになって、Kの母ちゃんの目を見た。
Kの母ちゃんは笑顔だった。

起き上がり、立ち上がって抱き合った。
やっぱり、仄かにいい匂いがした。
さっきより力を込めて抱き締めると、Kの母ちゃんは少し辛そうな息を吐いた。

「ごめん、力強かった?」

そう訊くと・・・。

「違うよ、まったく。ホントにヤボだね。黙ってて。もう一回、ぎゅってして・・・」

そのまま、しばらく抱き合っていた。

「あたしも、お腹空いたけど、ね、上、行こう」

上、というのは当然“二階”のことだ。
小さいが二階屋のこの家で、以前は夜遅くや早朝帰ってくる父ちゃんのための“寝る”部屋があった。
父ちゃんが寝ているときは絶対アンタッチャブルで、そのときだけは静かに遊ぶようにコドモ連中は申し渡された。

事故で父ちゃんが亡くなったあと、そこはKの母ちゃんの部屋になっていたはずだ。
俺は二階の様子は何も知らない。

「二階・・・二階って、俺行ったことないな」

「いいから」

Kの母ちゃんは俺の手を曳いた。
狭いスペースにありがちな、一段の高さが高くて踏板が狭い急な階段だ。
俺の2段先をのぼるKの母ちゃんのお尻が俺の目の前にくる。
形のいい、カッコいいお尻だった。

昇った先の引き戸を開けると、そこはKの母ちゃんの部屋だった。
いきなり、“おんな”の匂いが鼻を突く。
小さいベッド、チェストとドレッサー、平置きの女性雑誌。
仕事の書類と小さい電気スタンド。
化粧品。
俺が足を踏み入れていいものかどうか、迷った。

「いいから、来て」

Kの母ちゃんはじっと俺の目を見た。

「Mちゃん、何も言わないで、お願い。くっついて、そばにいてよ。お願い」

俺はなんだか、そういうKの母ちゃんの気持ちがわかるような気がした。
でもそれは全然ハズレの、トンチンカンな俺だけの理解かもしれない。
勝手な思い込みかもしれないが、俺もKの母ちゃんのそばにいたくなった。
お互いそう思えば、今はいいのかもしれない。

「うん、そうするよ」

俺もそれだけ言った・・・。

Kの母ちゃんはカットソーを脱ぎ、デニムも脱いだ。
紺の下着の上下になってベッドに入ってブランケットに潜った。

「Mちゃんも、脱いで。来て」

そうするのがいいんだろう。
俺が迷ったりしても仕方ない。
トランクスだけになって、ベッドに入った。

何度もキスをした。
おばちゃんは荒い息をして先に紺のパンツを脱いだ。

俺はおばちゃんの背中に手をまわし、ブラジャーのホックを外した。
そうか、これは紐じゃないんだな。

あの時見たKの母ちゃんの、かっこいいおっぱいと今のおっぱいは同じだった。
俺は夢中で乳首に吸いついた。
おばちゃんの両手が俺の頭を強く抱いて引き寄せた。

「ほら・・・ぜんぶ脱いで。ねえMちゃん、あたしでいい?あたしでいいなら・・・あたしは、Mちゃんの初めてになりたいよ。今日、玄関でバイクから降りて、ヘルメット取った顔を見たとき思った・・・」

俺にセックスの経験がなくても、何がどうなるか、何をどうするかがわからないわけでもない。
でもKの母ちゃんがセックスの相手、そして俺が初めてセックスする相手なら、もう見栄も虚勢も要らないし意味がない。
だったらそう言おう。

「うん・・・俺小さい時からおばちゃん大好きだったから。どっちみち初めてだから、正直に言うけど、どうしたらいい?」

俺は強く勃起していた。

「ほら・・・もう、そのまま大丈夫だよ。そのまま。前に、上に来て」

おばちゃんは少し膝を曲げて脚を開いた。
俺は両手と両足で交互に進むように、おばちゃの真上に来た。
先がおばちゃんの濃い陰毛に触れた。

「うん、そのままでいいよ。前に来て。そのまま」

腰と膝と腹筋で、“そのまま”俺はおばちゃんに被さる形で進んだ。
暖かい、優しい感触がしたかと思うと俺は深くおばちゃんに挿入していた。

「あっ・・・」

おばちゃんは目を閉じて両掌で俺の肩を強く掴んだ。
脚をさらに開き膝頭がもっと上になる向きに動いた。
俺はさらに深く入ったのを感じた。
頭が痺れて何も考えられない。
下半身も痺れたように自由が効かない。

やっとのことで、「おばちゃん、このままじゃ・・・俺もう・・・」と言った。

「いいの。今日は、そのままでいい。射精しそうなの?」

「うん・・・ちょっとでも動いたら、もう・・・」

「いいよ、好きに動いてみて。いいんだよ」

俺の目をみてニッコリした。

俺が自分の“気持ちいい”ように動いていいんだろうか。
そんな風におばちゃんを扱っていいんだろうか。
大好きなのに。

でもその大好きな人と、こんな風に体ごと全部、体の芯まで接する日が来るなんて想像もできるわけがなかった。
それも、ついさっきまで“普通”だったのに。

「あの・・・おばちゃん大好き・・・ずっと大好きだったよ」

「今は?」

少し悪戯っぽくおばちゃんが訊く。

「うん、今も、今も大好きだよ」

「ありがと。嬉しいよ。こうしてくれてる今も嬉しい。ほら、そのままいいんだよ。そのまま、体がそうなる通りで」

俺は自分が全部包まれて、おばちゃんの体の中全部に吸い込まれてしまったような感覚でいた。

(そうか、男が女に敵うわけないよ、体が大きくたって力が強くたって、全部包まれてしまうんだもの、降参だ・・・)

そう思ったら俺は楽になった。
緊張も何もなくなった。

「おばちゃん、気持ちいい。もう射精しそう。射精していいの?」

「うん!いいよ。あたしがMの初めて、全部ね、あたしがもらう。おいで。全部ちょうだい。ほら、そのままいいよ。そのままちょうだい」

おばちゃんに全部包まれている俺が跳ねた。
痺れる感覚がそのまま何度も来て、また跳ねた。
俺はおばちゃんの胸に抱かれたままずっといた。
ゆっくり、頭を撫でられていた。

おばちゃんが体を起こした。
俺も体全体を下に下げる形で、おばちゃんから離れた。

「シャワー、浴びといで」

おばちゃんの目は優しかった。

ひとしきり、俺とおばちゃんの身支度が済むと、歩いて近所の中華屋に行った。
ここにも同じ小学校の同級生とふたつ上のお姉ちゃんがいた。

「あれ、Kちゃんのお母さん・・・あっ、同級生のN君じゃない?大きくなったなあ、大学生だものね」

店主のおかみさんが話しかけてきた。
おばちゃんはニコニコしている。
二人でお腹いっぱい食べて、おばちゃんはビールをちびちび飲んだ。
少しピンク色の頬のおばちゃんは、可愛かった。

「今日は、ウチにいてね。お願い」

「他に行くとこないよ」

「うそ。ウチがダメだったら他にアテがあるって言ってたじゃん」

「まあ・・・どうしてもどこもダメ、だったら、まあ・・・」

おばちゃんは小声になった。

「K、帰ってくるまでいて。お願い」

「うん・・・わかった」

次の週、無事に教習を終えたKが帰ってくるという前日、俺はおばちゃんに言った。

「どうしても予定が今日までしか空いてなくて、ってKに言って。俺、どうしても・・・今回はKの顔見るのがっていうか、なんとなく・・・」

「わかってるよ。そう言うと思った」

おばちゃんは俺にキスした。

「あたしも、昨日の今日の明日のじゃ、目の前にMちゃんとKが並んでいたらドキドキするよ、まあドキドキしても平気だけど」

そう言って笑って、また俺にキスした。

<続く>

Hな体験

Posted by Small Stone River