俺の初めては母ちゃん、母ちゃんの初めては俺[後編]
〔体験談投稿者:Small Stone River 様〕
大学生になって最初の夏休み、俺は大学のある街でそのまま過ごし、アルバイトして何かのときのため貯金でもしておこうかとも考えた。
それなら実家で過ごし実家の近所で働いたって同じ気もする。
俺も母ちゃんみたく手紙かハガキでも書こうかとも思ったが家に電話した。
俺の部屋には電話があった。
携帯もスマホも普及していない時代、固定回線、つまり家電がある学生はそう多くはなかった。
母ちゃんは俺が遠い街の大学に進学することを決めたとき、キッパリ言った。
「知行、アパートに電話をひいて。大事なときに連絡がとれれば、どんなことがあっても何かできることがある。お金は母ちゃんが出す。お願い」
母ちゃんがそう強く言った理由はなんとなくわかる。
俺を産んだ母ちゃん、そして父ちゃんが相次いで亡くなった時のことが心の中にあったのだろう。
家に電話したって出るのは母ちゃんしかいないと思い込んでいるから、俺は繋がった瞬間に「俺」とだけ言った。
あたり前だ。
しかし、電話口から聞こえてきた声は母ちゃんではなかった。
「もしもし、その声、知行ね。あたし、トモコだよ。まだそっちにいるんだね?」
声の主は母ちゃんとは20年の付き合いがある、カジガワさんだった。
下の名前が『トモコ』という。
母ちゃんとは大学の同級生なのだが、カジガワさんは一度別の大学を卒業して働き、そのあと留学して帰ってきてまた大学に入り直したので母ちゃんの7歳上だ。
母ちゃんは親しみを込めてだろうが、「トモコ姉ちゃん」と呼ぶときがある。
ひとりっ子だった母ちゃんはきっと姉ちゃんが欲しかったのだろう。
同じくひとりっ子でもあった俺はどうかというと、そういう感慨はまったくない。
男女の差だろうか。
「ああ、カジガワさん、来てたの。母ちゃんいる?」
「うん、知行が帰ってくるからって、色々買い出しに行ったよ。『電話がかかってくるから、出て』って言ってね。あたしもそんな気がした」
女の勘というのだろうか。
俺は“夏休みに家に帰るかどうか”を電話して決めようとしたのだが、母ちゃんの頭の中ではもう“帰ってくる”ことになっている(笑)
もう帰るしかないではないか。
カジガワさんは母ちゃんと一緒に大学を卒業したが、さすがに新卒でほぼ30歳というのは一般企業に就職するにはユニークすぎると本人も自覚していたらしく、別の大学の事務職に採用されてそこで働いている。
顔立ちが整っていて上背もあり押し出しも強いので、渉外や役所への対応に走り回っているらしい。
とある公的機関になぜかカジガワさんを目の敵にして横車を入れる女性事務官がいたらしいのだが、カジガワさんが埒のあかない交渉に業を煮やし立ち上がって“ショートフライを併殺狙いでわざと落としセカンドにバックハンドトスする”ジェスチャーをいきなりやったら、その事務官は「あ、ソフト?」と目を丸くし、「休憩しよう、道具持ってくるから」と、役所の屋上でキャッチボールをしたそうだ。
それ以来すっかり打ち解けて、ややこしい折衝もカジガワさんが行くと難なく進むらしい。
人生、何が身を助けるかわからない。
「カジガワさん、俺が帰るまでいてよ」
「言われなくてもいるよ、久しぶりに知行に会いたい」
俺はその日の夜、当時まだ走っていた在来線の寝台特急に乗り実家に向かった。
翌日の昼頃に家に着くと、駐車場にカジガワさんの水色の外車が停まっている。
カジガワさんは留学した国でクルマの免許を取って現地で乗っていて、「体が馴染んじゃって他のクルマは運転しにくい」と言い、わざわざ日本でも同じのに乗っている。
「たまにしか壊れない」と言い張るが、俺が中学生の頃、母ちゃんと3人で秋にドライブに出かけたのはいいが、有名な観光地の紅葉のきれいな景色が続く有名な坂道の途中で故障した。
俺たちのクルマが先頭になり後続車どころか簡単にはすれ違えない対向車の列まで大渋滞になってしまった。
地元のニュースで「観光客の外車が故障、◯◯◯坂大渋滞、解消に4時間」とバッチリ報道された。
怒り心頭のドライバーたちに袋叩きにされそうなものだが、「こういうときにはコツがある」と訳のわからないことを呟くと、カジガワさんが書類を挟むクリップを何個かバッグから出し、なぜかスカートの裾を短く端折って膝上にした。
母ちゃんにも同じことをやらせ、母ちゃんがクルマの外で愛想をふりまき、手を振って「すみませーんごめんなさーい」と小芝居を打ちカジガワさんはわざと車線側にお尻を向けて開けたボンネットをのぞいて屈む。
もちろん修理などするわけもなく、ただの芝居だ。
大方の男性ドライバーは、「まあ仕方ねぇな」という風情でカジガワさんの脚をチラチラ横目で見ながらノロノロと通過してゆく。
俺は、(オトコって馬鹿だ・・・)と思ったものだ。
あとでカジガワさんは、「外国ではあれがあたり前」と意味不明のことを言っていた。
カジガワさんは最初に通った体育大の奨学金や留学の費用のため借りたお金の返済などがあり、アルバイトをしても右から左にお金は飛んでいったそうで、母ちゃんと同じ大学にいたときは本当にお金がなかった。
大学生の貧乏自慢などある程度、尾ヒレがついていることが多いがカジガワさんは本物だった。
お金がなく家に食べ物がなく頬がこけ青白い顔をして、お風呂屋さんに行くお金も切り詰め、カジガワさんは夜中に大学のプールに忍び込み裸で泳いで風呂代わりにしていた。
そうすると翌日、カジガワさんの体は塩素くさいのですぐわかったそうだ。
母ちゃんはそんなカジガワさんを見かねてよく家に連れてきていたらしい。
カジガワさんはサッパリとした性格なので、グダグダ申し訳ながったり遠慮したりしない。
「ユウコありがとう。好意、受けさせてもらうよ、この恩は死んでも忘れない」
そう言って、結構たくさん食べる母ちゃんも目を見張るくらい、ものすごい量のゴハンを食べてのんびり母ちゃんとお風呂に浸かり、息を吹き返していたらしい。
カジガワさんと母ちゃんが大学4年のとき、俺を産んだ母ちゃんが亡くなって俺は父ちゃんの叔父さん叔母さんの家、つまり今の家に預けられた。
そして俺の父ちゃんも冬山の事故で命を落とし、俺はこの家の戸籍に入った。
つまり養子だ。
戸籍の上では母ちゃんは俺の“姉”になるが、実際は俺の父ちゃんの“イトコ”なのだ。
親族以外で、カジガワさんはそういった経緯を最初からぜんぶ知っている、数少ない人だ。
カジガワさんは一回だけ、俺の父ちゃんが雪崩に遭って行方不明になり、遺体で発見された報せを受けた時の母ちゃんの様子を教えてくれたときがあった。
「涙がザーザー、両目の両端から滝みたいに流れて落ちてね、足もとに涙の水たまりができて池になって、それも流れて川になって、ほら、みんなでボートに乗った波理湖あるじゃん。あれはユウコの涙が堰き止められてできたの」
カジガワさんが留学していた時に身につけた駄法螺なのだが、本当にホントの悲しみの底につき落とされた母ちゃんがどれほど憔悴していたか、却って俺はホラ話のほうが悲しく思えてきて、自分の部屋で一人で泣いた。
俺が幼稚園の年長くらい、カジガワさんが家に泊まっていた日。
俺と母ちゃんが風呂に入っているところにカジガワさんがまったく普通に裸で「お邪魔するよ」と入ってきた。
「お邪魔するよ」の、“よ”が最高におかしい。
母ちゃんは涙を流して笑っている。
「狭いでしょ、一人でゆっくり入ればいいのに」
「だって、楽しそうなんだもん。あたしも入れて」
母ちゃんとカジガワさんの、何をどうしゃべっても耳をつんざく高周波の笑い声に俺は頭が痛くなってきた。
「もう、出る」と言うと、母ちゃんが「チコ、カジガワさんの背中流してあげて」と言った。
俺は躊躇なく「うん、いいよ」と言い、ヘチマに石鹸をつけてカジガワさんの背中を擦った。
「ひゃ~、気持ちいいな、チコウありがと」
カジガワさんはちゃんと「チコウ」と発音する。
外国で暮らすと「チコ」「チコウ」「チコー」が、全然違う、だからハッキリ区別する、というのがカジガワさんの主張だ。
カジガワさんはお風呂の椅子に座ったまま俺に向き直り「チコウ、お腹も洗って」と言った。
カジガワさんは足をぴったり揃え、太ももとお臍の三角州にお湯をためて「ほらほら、見て、ワカメ酒、ワカメ酒」と言った。
カジガワさんのこのノリというか感覚は、現代とは比べ物にならないくらいバンカラだった往時の体育大の気風で養われたのだろうか。
当時の俺には『ワカメ酒』など意味がまったく判らなかったが、(カジガワさんのモジャモジャ、母ちゃんより多いな)と思った記憶がある。
「ちょっと、息子に変なこと教えないでよ」
母ちゃんは笑いすぎて息が吸えず呻いている。
子供だった俺は何の躊躇もなくカジガワさんのオッパイもガシガシ擦った。
その年代の子供なんてまだ単に“親”とか“大人”とか“女の人”程度で認識している。
概念だけだ(笑)
カジガワさんは「母ちゃんのオッパイも洗ってあげたら?」と言ったのだが、俺は「母ちゃんのはやだ」と答えた。
母ちゃんとカジガワさんは、「どうして?」と同時に言った。
俺は「母ちゃんのオッパイはカジガワさんより大きいから面倒くさい」と、事実をありのままに答えた。
二人は体を『く』の字に折って笑い転げていた。
カジガワさんのオッパイは温州ミカンくらい、母ちゃんは夏ミカンくらいだろうか。
カジガワさんは「体育大でいっしょだったメグミって子はそれこそスイカの半分どこじゃなく左右1個ずつ丸ごと並べたくらい大きくて、『あたしの一族みんな胸大きいから立つと自分のつま先が見えない』って言って、もう悔しい(笑)」と言っていた。
そんな面白いカジガワさんだが、家に泊まると母ちゃんがカジガワさんとぴったり寄り添って、オデコをくっつけて寝ているのを見たことがある。
朝はカジガワさんが母ちゃんの胸のあたりに頬を寄せイビキをかいてたこともあった。
記憶が曖昧だけど、唇と唇をチュッとくっつけるのを見た気もする。
子供だった俺は単に、(母ちゃんとカジガワさんはうんと仲良しなんだな)と素直に思っただけだ。
カジガワさんは美人なのに、まったく恋人だの付き合った男だのの話が出たことがない。
それでも、留学していたときは日本人でもその国の人でもない、別の国から来た留学生の男性と暮らしていたのだ。
そのきっかけも現地の学校で「トモコ、お前、顔が真っ青だぞ具合悪いのか」と訊かれ、外国語で適当な言い訳を考える余裕がなかったカジガワさんは、「家賃払ったらもう家に食べ物がない、ガス代が払えなくて煮炊きできないからトウモロコシの粉を水で練って食べた」と本当のことを言ってしまった。
「トモコ死んじゃうぞ、お前さえよければウチに来い、家賃の3分の1でいいから出せ。俺の実家は食料品屋だから食べ物だけは売るほどあるぞ」
“実家が食料品屋”の言葉にフラフラとつられたカジガワさんは、その日のうちに男性のアパートに移って、帰国までいっしょに暮らしていたのだった。
ドノフリオというその男性からは今もハガキが来たりするらしい。
カジガワさんはドノフリオの話をするときは本当に楽しそうだけど、ちょっと不思議な気もする。
玄関を入ると母ちゃんとカジガワさんが出てきた。
カジガワさんの前で母ちゃんは俺にどう接するだろう、と思っていたらいきなり「チコ、お帰り」と言って抱きついてキスしてきた。
横でカジガワさんが笑っている。
「あーやれやれ、ごちそうさまだよ。でも、なんか、いいな、いいな、ステキ」と言い、ニコニコしている。
「ねえチコウ、あたしもギュってしてよ、いいでしょ」と言ってきた。
そうとくれば俺も遠慮なく思いきり力をこめてギュウっとカジガワさんの背中を抱いた。
「背が伸びたねえ、初めて会ったときはチコウがバンザイしてもあたしと手も繋げなかったのに、今じゃオデコに無精ヒゲがチクチクする」
俺がカジガワさんの小さな外車を運転して、3人で郊外にある洋食屋に行った。
カジガワさんは大学職員だからある程度俺の通っている大学のことも知っている。
「チコウの大学って偏差値高いけど、どうして遠くの学校にしたの?」
「別に、知らない街って面白そうだったからさ」
「昔から飄々としてて、気負いも衒いもない子だったよね。ほら、チコウが高校生のとき一緒に映画観に行ってさ・・・」
高校1年になった夏休み、カジガワさんが「映画観て、晩ご飯食べようよ」と誘ってくれた。
「どんな映画でも初めて観るならなんだって面白い」
というのが持論のカジガワさんは「映画の後でゴハンを食べる店が近い」という理由だけで映画館を決めてそこでやっている映画を観る、という算段にしたのだが、そこで観た外国映画がまずかった。
独裁国家の、冷徹で自分の儲けしか考えてこなかった強欲な実業家が、ふとしたきっかけから弾圧を受け収容所に送られる運命の民族の人たちを自分の経営する企業や工場で働かせることにより助ける。
多くの人々の命を迫害から救うことはできたものの、彼の国は戦争に負け財産もすべて無くし失意のうちに世を去る。
史実が基の映画で、最後のシーン、彼に実際に助けられ生き延びた人たちやその子孫が、彼の墓にひとつ、またひとつと石を積む。
その人たちの列は画面の端に見切れるほど長く続き途切れない。
俺はもう完全にダメで目がぼやけるほど涙が出て止まらない。
気がつくとカジガワさんはもうタオルで顔を覆って画面すら見ていない。
俺の肘をギュっと握って離さずずっとむせび泣いている。
映画館を出た後もカジガワさんはずっと俺の左腕を両手で掴んで自分の胸の前に抱き締めるようにして歩いた。
食事するときも向かい合わせではなく隣に座った。
「チコウ、一緒にいてくれてよかったよ、一人だったらあたし泣いちゃって歩けない」
大袈裟かとも思ったけど、ずっとずっと後で聞いたがカジガワさんがフランスで一緒に暮らしていたドノフリオは迫害を受けた民族の家系の人で、カジガワさんは彼の祖父母や曾祖父母たちの味わった苦しく悲しく辛すぎる物語を彼から実際に聞いていたのだった。
「あのときチコウがさ、あたしとずっと手を繋いで地下鉄乗って、家まで送ってくれたのホントに嬉しかった。コンチクショー、こいつ、モテるぞきっと、って思ったけどさ(笑)」
人と人の人生や歴史は、どこでどんなきっかけで交叉するか、その時が来るまでまったくわからない。
その意味では、俺と俺の母ちゃんだってそうだと思う。
俺を産んだ母ちゃんと俺の父ちゃんが相次いで命を落とすことがなければ、俺の人生も今の俺の母ちゃんの人生もまったく違ったものだったろう。
そして俺と母ちゃんが、息子と母親ではなく“男と女”になった。
それでも日々の生活は何の変哲もない俺と母ちゃんだ。
そんな組み合わせは世の中にあんまりないのだろうけど、俺と母ちゃんは本来、歳の差はあっても結婚だってできる続柄だ。
俺はその後の人生で『自分の母親のイトコと結婚した男性』『養子と養親だが実質的に夫婦である男女』を実際に知る機会があった。
要は当人たちが幸福を感じれば、誰かの幸せを踏みにじったり犠牲にしたりしていなければ、大手を振って生きてりゃいいとよく思う。
世間がどう見るかなど、気にすれば気になるけど、気にしなければまったく気にならない。
3人で遅めの昼ごはんを食べ、カジガワさんと母ちゃんは少しワインを飲んだ。
二人とも少しだけ顔が紅い。
「ねえねえ、ねえねえ、初めての時ってどんな感じ?どんな風に愛し合ったの?ねえねえ、ユウコが甘えたんでしょ、ねえねえ」
ワインが回ったカジガワさんが珍しくしつこく訊くので、俺は「母ちゃんは素っ裸で仁王立ちでワッハッハ、って笑ってたよ」と本当のことを言ってやった。
「なんか・・・ロマンのカケラもなくてつまんない。あたしユウコが涙を流しながらチコウに抱き締められてって想像して・・・」
「ホラホラ、お会計して帰るよ」
ズケズケと母ちゃんが伝票を掴んで立ち上がって行ってしまった。
ついでに『その母ちゃんの涙が溜まってできた湖』に寄って3人でボートに乗った。
大人3人で1艘のボートというのは結構ギリギリだけど、俺はなぜか手漕ぎボートを操るのが上手いらしく前後左右縦横無尽に漕げるし乗っている母ちゃんとカジガワさんに1滴の水もかけない。
「チコウ、上手だねえ」
母ちゃんは舳先、カジガワさんは艫(とも。船尾の側)にいる。
ボートというのはうしろ向きで漕ぐ。
この日もデートらしいカップルの男の方がボートなどあまり漕いだことがないらしく、係のおじさんに「漕ぐ人はうしろ向きだよ」と言われキョロキョロ戸惑っていた。
かと思うと、男女で横並びに座り左右1本ずつオールを持ち息の合った漕ぎ方でものすごい速さで湖上をすっ飛んでゆく二人連れもいた。
あれはきっと二人ともボート部だったのだろう(笑)
オールを漕ぐ俺は艫に座るカジガワさんと向かい合わせになる。
ひざ丈のスカートなのに躊躇なく体育座りのカジガワさんの水色のパンツがずっと丸見えだったけど俺は黙っていた。
「カジガワさんパンツ見えてるよ」と言ったところで、「ああ、そう」とか「ハイ、100円ね」とか言うだけだろう。
家に戻り、3人分業で晩ごはんのギョーザを作った。
俺の家、つまり母ちゃんの家系では、なぜかギョーザの具にグリンピースを入れるのだ。
俺はグリンピースが苦手で子供の頃はギョーザをほどいて開けてグリンピースだけ選り分けて先に食べていた。
今は自分用にグリンピースを入れない具を別に作って自分で包む。
ふと見るとカジガワさんが包んでいるギョーザが妙だ。
普通、皮を閉じるときは少し段違いに上と下をずらして押さえるけど、カジガワさんは皮の合わせ目が対称、というか正弦波の形の向かい合わせだ。
そして皮の合わせ目の端にひとつだけ、グリンピースが見えるように挟んでいる。
俺はすぐ判ったが、わざと「カジガワさん、そのギョーザ何?」と訊いた。
「わかってるくせに。可愛いでしょ、ギョーザのオマンコちゃん」
カジガワさんの美貌もフランス語も教養も、根底からぶち壊しにするようなことを平然と言う。
「ちょっと、トモコ、何やって・・・」
母ちゃんはすでにしゃがみ込んで苦悶の表情で笑い転げている。
「ヘンなもの作らないでよ、これから焼いて食べるのに」
「ヘンじゃないよ。よく似てるでしょ、小陰唇とクリトリスの感じ。我ながらよくできた」
四の五の言ったくせに、母ちゃんも平然とカジガワさんの包んだオマンコギョーザを食べながら、「なるほどねえ、言われてみれば似てるねえ」と感心しきりだった。
俺はもう黙って食べていた。
さあお風呂だ、という段になって・・・。
「チコウがこんなにでっかくなったら、もう3人はムリだね、ユウコ、一緒に入ろう」
「うん」
母ちゃんとカジガワさんが先に風呂場へ行った。
しみじみと、静かに話している声が聞こえる。
何やら「今日?」「うん、そう・・・」と聞こえた気がした。
(何だろう?)と思っていると二人ともあがってきた。
「チコ、きょうは和室でみんなで寝よう。フトンあっちに敷いておくから」
母ちゃんがそう言い、俺は一人で風呂に入った。
下宿では風呂屋に行っていたから、心置きなく入れる実家はありがたい。
大学生になってまだ5ヶ月も経ってないけど、色々出来事があって面白い。
まさか自分が初めてセックスする相手が母ちゃんだなんて思ってもみなかった。
そしてその母ちゃんですら、初めてのセックスの相手が俺・・・と思い出しながら考えたとき、俺はあることに気がついた。
母ちゃんは「母ちゃん、男の人とセックスしたことない」と言った。
どうしてわざわざ「男の人と」と言ったのか。
俺は頭の中ですんなりと、“女性とならセックスはしたことがあるからだろう”と気がついた。
それなら、母ちゃんとセックスした相手の女性、それはカジガワさんしかあり得ない。
俺は自分の見てきたこと、記憶、色々の点と線が繋がった気がした。
母ちゃんは姉のようにカジガワさんを慕い、時には恋人のように想い接したのかもしれない。
カジガワさんも母ちゃんも、「人は誰のものにもならない、誰かのために生きるんじゃない、そいつがそうしたいように生きるんだ」的なことを、それぞれの言葉で言うときがある。
俺は俺で、幼いときに両親を失い他所の家庭に託された人生を子供の頃から(世界には“自分”がいるだけで、その周りのものはみんなマボロシみたいなものだ)と、なんとなく思っているフシがある。
刹那的とかニヒルなんじゃなく諦観でもなく、“そういうもの”と思っているだけだ。
普段はガランとしている畳敷きの部屋に3人でフトンを並べて寝る段になってカジガワさんが「ねえあたし、ジャマじゃないの?」とケラケラ笑った。
「どうしてジャマなの」
母ちゃんも笑う。
「だってユウコ・・・“恋人”が家に帰ってきて、愛し合わないの?セックスしないの?」
「チコ、母ちゃんとセックスしたい?」
「うん。したい。母ちゃんもじゃないの?」
「うん、すごくしたいの。セックスしよう!」
「ほら、やっぱり・・・じゃあ、あたし、チコウの部屋で寝るよ」
「ここにいていいよ・・・ねえトモコ、ここにいて」
なんだか母ちゃんが甘えた声で言う。
「二人とも・・・あたしが横にいて、セックスできるの?」
「別にいていいよ。どうしてジャマなの?思ったんだけどさ、カジガワさんも母ちゃんとセックス、したいでしょ?」
カジガワさんと母ちゃんは数秒黙っていた。
「話していいかと思ってたんだけど・・・そう、あたしカジガワさんとセックスしてたよ。学生の時から」
カジガワさんも優しい声で言った。
「あたしね、別に男の人が嫌でもなんでもないけど、セックスってピンとこなかったの。フランスでいっしょに暮らしてたドノフリオは◯◯で(←ここでカジガワさんは今は使わない表現を言った)、だからずっと同じベッドで寝てたけどセックスとかはなかったな。あたしはどっちでもいいと思ってたし、ドノフリオのこと好きだったけどね」
母ちゃんも優しい目になった。
「男でも女でも、好きならどうであってもいいな、って思ってた。トモコといっしょにいて、なんだか安心してぴったりくっつきたくなって、裸になって抱き合ったらそのまま自然にセックスになった。それでもチコが大きくなって・・・立派な大人になったら、やっぱりチコとセックスしたいな、って思ったの。今もしたいよ・・・ねえチコ、セックスしよう」
俺も母ちゃんも、そういう点ではずいぶん変わってるんだろうけど、自分たちがそれでよくて、カジガワさんもそれで自然なことなら何も気にしない。
俺と母ちゃんはそのまま二人で裸になり抱き合った。
何度もキスした。
母ちゃんの息遣いが少しずつ荒く、せわしなくなる。
俺は母ちゃんのオッパイを吸いながら太腿をゆっくり開かせクリトリスに触れながらもうビショビショに体液を溢れさせている膣口をなぞってゆっくり指を挿れた。
母ちゃんが呻きながら背中を弓なりに曲げて浮かせる。
「ねえ、カジガワさん」
俺はカジガワさんの顔を見た。
慈愛にも似た優しい笑顔でカジガワさんが俺を見返す。
「カジガワさんも、母ちゃんに触ってよ、カジガワさんも母ちゃんとセックス、したいでしょ」
「うん・・・したい。ユウコ、あたしも」
「うん・・・いいよ、来て」
母ちゃんも優しく笑った。
カジガワさんも裸になって母ちゃんの右側に来た。
俺は改めてカジガワさんのスタイルの良さに内心感心していた。
カジガワさんが母ちゃんに何度もキスして、そして母ちゃんの左の乳首を優しく口に含んだ。
俺も母ちゃんの右の乳首を吸った。
母ちゃんは呻いて仰け反り「気持ちいい・・・感じる・・・こんなの・・・」と言い、目を瞑った。
「ユウコ、知行のオチンチンがピーン!って、すごく大きくなってるよ。エッチだね。あんな小さい男の子だったチコウが立派な男になって・・・あたし達の背もとっくに追い越して・・・自分の息子に抱かれるまで処女だった母親なんて・・・なんてロマンチックなんだろ・・・」
(それってロマンなんだろうか)俺は思ったが黙っていた。
「チコ・・・オチンチン挿れて・・・お願い・・・トモコに見られてセックスするの・・・すごく感じる」
俺はゆっくり母ちゃんの上になって挿入した。
俺が上半身を反らせ両腕をつくとカジガワさんが母ちゃんに何度もキスし、左右の乳首を交互に口に含みながら指で優しく母ちゃんのうなじや頬をなでた。
「すごい感じる・・・チコのオチンチンがオマンコに入ってて・・・トモコにはオッパイ吸われてるのあたし・・・なんてエッチなんだろ・・・」
「ユウコ、触って、あたしも」
カジガワさんが母ちゃんの手を自分のオマンコに導くと母ちゃんは優しくカジガワさんのクリトリスと膣口をゆっくり触り始めた。
カジガワさんのオマンコもビショビショに濡れているのが判る。
母ちゃんとカジガワさんとでは体液の匂いが違う。
母ちゃんとセックスしたときのアパートの部屋とは違う匂いがしている。
二人のエッチな汁の混ざった匂いなのだろう。
「愛し合う母親と息子のセックス間近に見るなんて・・・エッチな気持ちにならない女なんていないよ・・・あたしだってすごく感じる・・・」
母ちゃんはカジガワさんの膣に人差し指と中指をゆっくり出し入れさせ、時折指の腹を上側に曲げながら引く。
中からかき出されるようにカジガワさんのねばっこい体液が母ちゃんの指にからまって垂れ落ちてくる。
「ねえチコ、ねえ・・・カジガワさんに・・・カジガワさんのオマンコにも、チコのオチンチン挿れてあげない?」
「・・・えっ??」
「ねえ、トモコお姉ちゃん」
母ちゃんはカジガワさんの顔をゆっくり見た。
「あたし・・・トモコお姉ちゃんがチコに抱かれるの、見たいな。大好きなチコと大好きなお姉ちゃんが愛し合うの。ドキドキして感じる。チコはどう?」
「うん・・・俺子供の頃からカジガワさん大好きで・・・カジガワさんが家に来ると嬉しかったもんな」
「ゴハンはあたしが、たくさん食べさせてもらったけどねえ」
カジガワさんが優しく笑った。
「ねえカジガワさん、俺もカジガワさんとセックスしたい」
するとカジガワさんは今まで俺が一度も見たことのない、はにかむような、照れるような表情で少し俯いていた。
でも笑顔のままだった。
「それは・・・まあ、その、うん・・・自分がもし・・・男の人に・・・抱かれるなら・・・それならチコがいい・・・チコならいいな、って思ってたけど・・・いくらあたしでも、その、ちょっと恥ずかしくて、そんなのすんなり言えないよ・・・でも・・・うん。抱いて、チコ」
カジガワさんが珍しく俺を「チコ」と呼んだ。
そしてこんなに恥ずかしそうにドギマギするカジガワさんを初めて見た。
顔をあげてニッコリ笑い、俺の目を見た。
「そういう意味ではあたし、“処女”で生きてきて、まあそういう人生ならそういう人生でもいいや、って思ってたの」
カジガワさんは立て膝の『体育座り』になった。
母ちゃんと同じく足が長いから膝頭でオッパイが隠れる。
「でも、チコがそう思ってくれるんだったら、チコ、お願い。あたしのこと抱いて。チコにあたしの処女を捧げるの。なんだかまだちょっと、恥ずかしいけど」
そう言いながらカジガワさんも母ちゃんも屈託なく笑っている。
「よーし」
カジガワさんが文字通り『大』の字になって母ちゃんの左隣で両腕を真横に伸ばし脚も開いた。
『大』の字というか、マッチ棒を並べて作った『六』の字といった方が近い。
「あーなんか、幸せな気持ち。本当は・・・」
「どっちでも同じ」
俺と母ちゃんで同時に声が揃った。
「ホントにそうだね。しても、しなくても。ねえ知行、キスして」
俺はカジガワさんの上に重なりキスした。
俺が物心ついてずっと身近にいたカジガワさんだけど、目のピントが合わないくらい面と向かって近づいたことは初めてだ。
2度、3度キスして口の中で舌を触れ合わせるとカジガワさんの息のせわしさと動悸が伝わってくる。
カジガワさんはきっと、俺の知らないところで何度も何度も、母ちゃんと俺の助けになって、励まして寄り添って、慰めもしてくれてきたに違いない。
「カジガワさんありがとう。大好きだよ」
「うん・・・知行、あたしも大好き。二人とも大好きなの・・・こんな日が来るなんてね・・・嬉しい・・・」
俺は布団に立てた自分の両膝を支点にして、カジガワさんの膣口に当たったままの状態で背伸びをするような体勢でゆっくり根元まで挿入した。
カジガワさんの膣はびっくりするくらい熱くて滑らかだった。
「ああっ・・・あっ・・・ああ・・・チコ・・・抱き締めて・・・お願い抱き締めてそのまま・・・ああ・・・チコ・・・ああ・・・あたし・・・女に・・・女に生まれてよかった・・・チコ・・・」
俺とカジガワさんが抱き合う傍に母ちゃんが来た。
カジガワさんのオデコを母ちゃんが優しく掌で撫でて、そしてキスする。
「ああ・・・ユウコ・・・好き・・・好きだよ・・・」
「あたし・・・チコがいて、トモコがいて、幸せ」
俺にも母ちゃんはキスした。
「チコ、トモコにも射精してあげるんだよ。あたしの初めての時みたいに」
「うん・・・カジガワさん、いい?」
「うん・・・ちょうだい、嬉しい・・・」
カジガワさんの目に薄っすら涙が浮かんでいる。
俺はいちばん深く挿入するタイミングに来るように、カジガワさんの肩をがっちり掴んで抱き締めキスしながら射精した。
自分が何度も跳ねる感じが判った。
「ああ・・・出してくれたの・・・あたしの中に・・・ああ・・・幸せ、あたし」
カジガワさんが俺の髪をクシャクシャに揉み顔中にキスした。
「ピンで刺されてる標本みたい・・・動けない・・・」と言って笑った。
俺がゆっくり離れると母ちゃんがカジガワさんの膝を開き愛おしそうにカジガワさんのオマンコに何度もキスをした。
カジガワさんのオマンコからねばっこい体液が流れて垂れている。
母ちゃんは愛おしそうにカジガワさんのオマンコを舐めると、「やっぱり、チコとトモコの味がする。理屈が合ってる」と妙に感心したあと、「そのままオチンチン、あたしに挿れて。あたしにもちゃんと中で射精してね」と言った。
俺はまた母ちゃんと抱き合った。
母ちゃんは初めて俺の上になって、大胆に動いた。
カジガワさんはおだやかな笑顔でずっと俺たちを見つめていた。
「母ちゃん、射精しそうだよ。いい?」
「うん・・・出して・・・あたしも・・・いきそう・・・いっしょにね・・・あ・・・あ・・・い・・・く・・・」
カジガワさんの時と違い勢いをつけて、少し激しく、下から打ち付けるように何度も射精した。
母ちゃんのオマンコからは空気の漏れる音が断続的に聞こえた。
「なんだか、可愛い音だね」
カジガワさんが微笑んだ。
「あたしはもう妊娠しない体だけど、それでも処女のまま死んじゃうよりずっと面白い人生になったよ、チコ、ありがとね」
そう言ってまだ母ちゃんの下にいる俺の頭を、「いい子いい子」の感じで撫でた。
「ねえ、“血”って、出ないのかな?出てない?」
カジガワさんが自分のオマンコを覗きこむように見て、言った。
「出てないよ。あたしも出なかったの。そんなものなのかな?」
母ちゃんとカジガワさんはしばらく「ふうーん、へえーえ」と納得していた。
「ねえチコ、あたしね、ギリギリ間にあったよ!」
母ちゃんがニッコリ俺の目を見つめた。
「間に合う・・・間に合ったって・・・母ちゃん、それもしかして・・・」
「チコ、母ちゃんね、母ちゃんになるの。本当の母ちゃん」
カジガワさんがパチパチパチ、と拍手した。
俺は心のどこかで「もしかしてそうなるのかも」と、無意識に思っていたのかもしれない。
初めて母ちゃんとセックスしたときも、大学のある街に遊びに来た母ちゃんとラブホテルやアパートでさんざんセックスしたときも、母ちゃんは「大丈夫」と自信ありげに言って一切、避妊のことは言わなかったし事実避妊しなかった。
母ちゃんの体は本当に母ちゃんとなるよう、着々と歩みを進めていたのだなと思った。
「母ちゃん、俺と母ちゃんの、赤ちゃんなんだね?」
「当然でしょ。ほかに何があるの。でもね、あたしはチコの人生のジャマはしないって決めてたの。だから母ちゃん一人でも・・・」
「母ちゃんバカ。何がジャマになるのさ。俺はそういう人生でいいよ。幸せじゃん。きっと楽しいよ。だって家族でしょ、もう」
カジガワさんが感に堪えない表情で「ホラ、ユウコ、あたしが言った通りでしょ。なんの心配もいらないよ知行は。ホントにあたしが思った通り」と笑い出して、そして言った。
「ゴールデンウィークに遊びに行くときね、ユウコったら『よし、頑張ってくる』って気合い入れてたの。あたしなんとなくピンときたから『うん、頑張っておいで』って言ってさ。予定日は来年の3月」
(そうか、俺も“人の子の親”になるのか)
いつか何かの形でそうなる日が来るなら、いつでも、どんな風でもいいし、同じだ。
俺はすっかり嬉しくなった。
そして思った。
母ちゃんは、大好きで大好きでずっと慕っていた、俺の父ちゃんの“命”を、自分の命をかけて繋ぎとめたかったのではないか、父ちゃんの“子”である俺、そして母ちゃんとの間で“新しい命”を授かって、産み育てたかったのではないか。
俺は生まれて初めてそんなことを考えた。
そんな家族は滅多にいないだろうけど、俺たちが幸せならそれで万々歳だ。
いつの間にかカジガワさんの太腿を枕にして横になっている優しい笑顔の母ちゃんが、俺の目を見つめ、俺の足の甲をゆっくり撫でている。